たまには、仕事のことを書いてみよう
電機メーカーで、リチウムイオン二次電池の研究開発にたずさわっている。
PC
、携帯、デジカメ、ビデオカメラ等々モバイル機器に入っている充電池(バッテリー)。

これが世に出た1991年に入社したから、この製品と共に育ったという感じ。今は100名近い部署も、当時はたったの8人だった。

専業主婦の母の元で育ち、父の駐在で海外生活(そしてその後の帰国生だらけの学校での生活)もあったから、自分の周りで「働いているお母さん」は、ほとんどいなかった。

大学を卒業する頃には、自分も漠然と「結婚したらやめる」と思っていた。

「結婚しても仕事は続ける」のが当たり前の会社に入り、それが当たり前のパートナーと結婚し、当たり前のように続けてきた。

電機メーカーの化学屋さんというのは、すごいマイノリティ。

だけれども、電池は、化学反応が起きているすぐその外側は製品、という化学屋さんが活躍できる数少ないデバイス。そして、電気メーカーで多少なりとも環境に貢献できるデバイスでもある。

入社当初は、電気化学なんて全くわからなかったが、尊敬できる先輩と優秀な同僚に恵まれ、十数年の間にモノになったもの、葬られたもの、色々な材料を触わり、なんとか電池のことを語れるくらいになってきた。

原料求めて研究所裏の林に入ってみたり、測定装置に入れるために2mm角くらいの電池を手作りしてみたり、工場で泥臭いことをしたり・・・。ものづくりが大好き、実験にわくわくしながらここまできた。

4年前の産休(正確には育児休暇)開け直後、部署の東北移転が決まった。ついて行けない。

全員行くことが前提となっていたから、自分のこれまでのキャリアが生かせるような職場への異動はNGとなっていた(きびし~)。

自分は、実験をすることが好きなんだと思っていたが、改めて自分のたな卸しをして考えてみると、電池(とそれにまつわる仲間など)に対する愛情?執着?が思っていた以上に強くなっていたことを知った。

いくつかの部署へのオファーはあったが、なかなか踏み切れなかった。

DINKS時代だったら、単身赴任していただろうか?でも、文字通り(待望の)乳呑み児を抱えていた。

もう、会社をやめてしまおうか?それも考えた。

東北へは行かないと決めた仲間が次々と異動していく。みな、「異動するなら、一刻も早く、いい条件の所へ行った方がいいよ」とのアドバイスを残して。

見るに見かねた上司が、すごいことをしてくれた。

社内で解析をやっている部門のトップに「解析の部署で、電池の解析専属として取ってほしい。」と掛け合うことを提案してくれた。

費用は電池部署持ちで。これまでのキャリアを生かせる職場への異動は基本的に禁止されていたから、これは、かなりの特例。

でも、解析の部署だと、自分が手を動かしてのものづくりはなかなか出来ない。

夢に見るほど悩んだ。自分自身が物づくりの現場からは離れ、でも大好きな電池の開発の縁の下の力持ちとなるか、それとも全然別の製品の物づくりの現場に行くか。

泣く泣く異動した人、家族を置いて、あるいは、子供さんを転校させて東北に移転する人、みんな何かを選んで何かをあきらめた。私は何を選んで何を手放すか?私だけが「特例」を受けてもいいものか?悩んだ。

移転に伴い、たくさんのベテランがやめてしまったり、新しい人が入った電池部署。

解析にまわってもまだまだ私が貢献できることは多いのではないかと考え、そしてなにより上司が特例とも言える措置を提案してくれたことに応えるという意味でも、解析に移ることにした。自分だけ、いいのか・・・?との気持ちもあったが、周りが自然に作ってくれた流れ、ありがたく乗ることにした。

この部署に移ってもう少しで4年。思うところは色々ある。

現場が恋しくなることもたくさんある。

それでも単なる解析技術者にとどまらず、材料に対する突っ込んだディスカッションをして、新しい解析方法を開拓していると、現場の人も頼ってきてくれる、相談を持ちかけてくれる。

もう嫌だな、やめたいな、と思ったことも何回か(何回も?)ある。

でも、不思議なことにそのたびに、周りが自然と動いてくれ、流れがよい方に動いたように思う。

本当にやめるべき時、変わるべき時が来たら、ちゃんとわかるだろうと信じて、今自分にできること、やるべきことの本質を見失わないように、誠実に向かい合うようにしている。

大胆な方向転換をした人、世界を股にかけて活躍している人、新しい世界を開拓している人、自分の世界を極めて頂点に上っていっている人、眩しいような人が周りにたくさんいる。

それに比べて自分は、なんてちまちまと、狭い世界で動いているんだろう・・・なんて情けなく思うこともある。

でも、これが私の持ち味なのであって、私の役割なのだろう。

今やるべきことを誠実に、そして余力があれば次のステップへ向けての蓄積を。

そうすれば、次の一歩が全然違う世界であったとしても、同じ会社の別の仕事であったとしても、はたまたずっと同じ職場で続けることになったとしても、その時々の最善の選択をできるだろう。

そう信じて一歩一歩着実に進みたい。

最後に忘れてはならないのは、報酬のこと。正直言って、今の私は、報酬にはそんなに関心はない。

でも、同じくサラリーマンである夫が、万が一今の職場で納得の行かない仕事をさせられそうになった時、お天道様に顔向けできないことに関わらなくてはならなくなったとき、「家族を路頭に迷わせてはいけない」との理由で関わって欲しくない。

そしたら迷うことなくきっぱりとやめられるだけの、「どんと、私に任せて」と言えるだけの最低限の収入は確保しておきたい。

テレビで頭を下げている方々が、皆がみんな、悪意があって、極悪非道でそのようなことに関わったとは思えないから。

そんなところかな、今の私の仕事に対するスタンス。
長々と失礼しました。